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【小説感想】ドクター・スリープ

ドクター・スリープ 上 (文春文庫)

スティーヴン キング/文藝春秋

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ドクター・スリープ 下 (文春文庫)

スティーヴン キング/文藝春秋

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概要

スティーブン・キングの傑作ホラー『シャイニング』の続編。前作の主人公であるトランス一家の息子、超能力(シャイニング)を持つ少年ダニーのその後を描く。

あらすじ

前作で父親を失った少年ダニーは、トラウマを抱えながらも母親とダニーと同じくシャイニングを持つ老人ディック・ハローランに支えられ、しばらくはまともに成長していたが、最終的には父親と同じ飲んだくれになり、酒で問題を起こす度に各地を転々とする生活を送る様になっていた…。

しかし、ダン(元ダニー少年)がどん底に落ちたタイミングで、僅かながらダンと同じシャイニングの力を持つ老人ビリーと出会う。ビリーからの救いの手が切っ掛けになり、その町で仕事を見つけたダンは、断酒会コミュニティに参加する様になる。

そしてダンは、新たなコミュニティとの付き合いの中で相互扶助と愛の精神に目覚め、シャイニングの力を使ってホスピスで死に臨む患者の苦痛や孤独を取り除くドクター・スリープと呼ばれる存在へと成長する。

そんな中、ダンは超強力なシャイニングの力を持つ少女アブラと出会う。パワーを持て余す孤独な少女アブラとの出会いに、かつての自分とハローランとの出会いを重ねたダンは少女を導こうとするが、やがてアブラはシャイニングの力を持つ子供たちを殺害しパワーを吸い取る恐ろしいヴァンパイア集団の存在を感知し標的となってしまう…。

面白さ

ドクター・スリープはシャイニングの続編であるが、ホラーでは無い。ジャンルとしてはダークファンタジーという所である。そしてホラーではなくなった所が、本作の最大のポイントでもある。

ホラーというものは、基本的にはある種の閉鎖的な境遇であり、孤立無援の状態で発生する。前作のシャイニングは正しくそうした状況で発生した物語であった。今作でもダンは、そうした状況に陥り、父親の二の舞になってしまう。しかし、それは序盤までの話である。

ダンは、断酒会コミュニティ(明らかに教会の役割を担っている)に参加する事で、自分が問題を抱えている事、人は問題を一人で解決できるほど強くはないこと、そしてだからこそお互いに助け合う事が重要であるという事を学ぶ。

だから、ダンは少女アブラをそうしたホラー的な閉鎖的な境遇から守ろうとする。世間にも両親にも理解されないまま、孤立無援の状態で恐ろしいモンスターと戦わなければいけないという状況を回避する為に、ダンはアブラを説得して、異能に否定的なアブラの両親も巻き込み、友人も巻き込んでいく。なぜなら、それこそがダンが学んだアンサーだからだ。

故に、今作はホラーにはならなかったのだ。シャイニングの力はダニー少年に孤独と恐怖をもたらしたが、成長したダンはシャイニングの力を使って、他人と繋がり孤独や恐怖を取り除くドクター・スリープとしての道を見つけたのである。ドクター・スリープは、続編であると同時に、シャイニングに対しるアンサーにもなっているのだ。

あと付け加えるなら、今作では最近のハリウッド映画で主流である愛というテーマの他にも、リメンバーミーにあったクソみたいな過去もきちんと受け止めようというテーマも登場する。なのでこの時代に書くべき続編であり、今読むべき作品になっているなと思う。


トゥルーノット族

ちなみに、本作の敵キャラである霊的なヴァンパイア集団はトゥルーノット族(真結族)と呼ばれている。

ダンたちが愛情で繋がっているチームなら、こっちは邪悪な目的で繋がったチームである。不老不死を維持する為に、シャイニングの力を持つ子供を拷問してパワーを吸い取って殺すのだ。また、資産はあるが、一つの町に長居できないので集団で町から町へと移動している。

トゥルーノット族は、人間を下民と呼んで見下しているが、恐らく元は人間だったのではないかと思われる。作中では明言されていないが、恐らくシャイニングの力を、他人から何かを奪う為に使用する様になった人間の成れの果てというのは、彼らの実態ではなかろうか。トゥルーノット族の超能力は、シャイニングの力で出来る事と被っているし、パワーを使ってオヤジ狩りみたいな事をしていた人間が仲間として勧誘されている描写もある。

それを踏まえると、正しくダンたちのダークサイド的な存在であるとも言える。

関連図書

ちなみにこの作品にはスティーブン・キングの息子で作家のジョー・ヒルのホラー小説『NOS4A2(ノスフェラトゥ)』とのクロスオーバー要素なんかもお遊び的に入っている。子供を攫う邪悪なスタンド使いな悪役のチャーリー・マンクスが名前だけだが出て来るのだ。

最近のキングはジョー・ヒルの影響なのか、超能力を持った中年や老人を主人公にした、コミック的(ライトノベル的)な要素の強いダークファンタジーを幾つか書いている。本作は『シャイニング』の直接的な続編ではあるが、そうした作品群の影響も強く感じられる作品でもあるので、先に読んでおいても良いし、この作品が気に入ったら読んでみるのも良いだろう。なので、関連図書を以下に挙げて置く。

スティーブン・キング作…

『不眠症』:不眠症を拗らせた結果、霊能力に目覚めた老人が主人公のキング版幽遊白書みたいな作品。超能力の応用として、エネルギードレイン能力が出て来る。

『悪霊の島』:交通事故が切っ掛けて霊能力と画家としての才能に目覚めた定年退職中年の話。想像力についての寓話であり、鈴木光司の「リング」みたいな展開も楽しい作品。

ジョー・ヒル作…

NOS4A2(ノスフェラトゥ):ジョジョの奇妙な冒険みたいな雰囲気の、異能力者同士が対決する話。スタンド使いが惹かれ合い、謎の連続殺人犯の存在に気付くという話なので、ジョジョ第4部に似ている。ジョジョ第4部は確実にスティーブン・キングのITの影響を受けているので、ITに現代的要素(マンガ的要素)を組み込んだら似たような話になったのだとしたら面白い。

『ロック&キー』…これは小説じゃなくてアメコミ。超能力が宿る不思議な複数の鍵を巡るダークファンタジー。続刊中だが、続きが出るかどうかは不明。


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by cemeteryprime | 2018-03-24 10:51 | 作品・感想 | Comments(0)

【TRPG】ファック仮説

異世界転生ラノベに関して考察していて、ふとTRPGについても思い当たる部分があったのでまとめてみる。

異世界転生小説にみるファック精神

俗に言う異世界転生系小説とは、基本的にはイージーモードで異世界を蹂躙する話であり、どういう人物に転生するかに違いはあれど、手軽にハーレムを形成し、しょーもない敵を蹂躙し、人々の信用を勝ち取り、権力を手に入れる話であるという点は共通する。

端的に表現するならば、主人公が簡単に世界をファックできる異世界に飛ばされて、飽きるまで世界をファックしまくる話である。異世界転生というよりは、異世界ファック小説と表現するのが正確だろう。

ファックという言葉はここでは、攻略、蹂躙、レイプ、etc…の意味合いを雑にひっくるめた表現として使用している。

異世界ファック小説は、基本的には現実世界でファックされている作者が世界をファックしたいという願望を込めて作る作品であり、同じように現実世界にファックされている読者が共感する類のものである。なので特にメッセージ性やドラマ性といったものは希薄で、如何に気持ち良くファックをするかという点が追求される。そういう意味ではポルノに近く、実際作品としてポルノと親和性が高い。

余談になるが二次創作のジャンルとして、既存の作品世界のキャラに転生して作品世界をファックするというものもある。作品の実写化などの際に原作レイプと表現される事があるが、これこそ原作レイプそのものだと言えよう。

ゲームにおけるファック精神

異世界ファック小説の話はその辺にしておいて、ここからゲームについての話に移る。

ゲームは、実際の所、プレイヤーがゲームの世界をファック(攻略あるいは蹂躙)する遊びである。中には平和的なゲームも存在しているが、基本的にはファックすることで快感を得る遊びだ。

TRPGに関してもこうした事情は同じで、基本的にはプレイヤーたちはゲームをファックする為にやって来る。そして、キャラクターを自作してゲームに参加する時、結局の所、異世界ファック小説を楽しむ精神と似た心境でゲームに参加することになる。

剣と魔法の世界を舞台にしたTRPGの場合は、勇者の物語なので、こうしたファック精神とは相性が良い。プレイヤーは自分の分身になるキャラを作り、異世界をファックして遊ぶので、異世界ファック小説と似た快感を味わうことが出来る。しかも、TRPGなので完璧に主人公の行動を自分好みにコントロールできる。

異世界ファック小説は、基本的には剣と魔法のファンタジー世界に転生する話なので、こうしたジャンルの愛好者と冒険者系TRPGの愛称は凄く良いはずである。

ホラーゲームにおけるファック精神

一方、主人公が世界をファックするのでは無く、主人公が徹底的にファックされるジャンルという物も存在する。ホラーである。ホラーというのは基本的に、肉体的にも精神的にもファックされまくりボロボロになる話である。

ホラーTRPGの場合、先の様に異世界をファックするゲームにしてしまうとホラーでは無くなってしまうという構造的な問題がある。

テレビゲームにおけるホラーゲームの場合は、コンティニューやセーブ機能によってこうした構造的な問題をクリアしている。何度もファックされ死亡しながらも、コンティニュー機能によって最終的には世界をファックするというホラーとゲームの両立が可能になっているのだ。

だがホラーTRPGの場合は、基本的にコンティニュー機能は無い。代わりにあるのは死亡したキャラの意思を別のキャラが引き継ぐというシステムである。クローズド系シナリオの場合は、こうした引継ぎが不可能になっている場合があり、その場合は構造的な不具合は深刻だ。

ホラーTRPGを成立させる場合は、容赦なくファックしつつも、死んでも引継ぎ続行できる仕様にしておくか、死なない程度にファックしまるテクニックを構築するかのどちらかが重要になるだろう。


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by cemeteryprime | 2017-07-23 23:28 | TRPG講座・考察 | Comments(0)

【小説感想】悪霊の島

悪霊の島 上 (文春文庫)

スティーヴン キング / 文藝春秋

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スティーブン・キングの長編モダンホラー(上下巻)。異能力開花描写あり、クライマックスのダンジョン探索あり、超自然的なラスボスありで面白い。

あらすじ
主人公のエドガー・フリーマントルは、建築会社の社長だったが交通事故で死にかけ片腕を失い酷い後遺症に悩まされ、妻とも離婚する羽目になる。

会社も手放し、療養の為にデュマ諸島という場所に引っ越したエドガーは、何となく絵を描き始めるが、デュマ・キーという土地の魔力によって絵の才能は恐ろしいスピードで進化してゆく。

失われた片腕を通じて、霊的な世界にアクセス出来るようになったエドガーは、ヴィジョンを絵にする事によって現実にも干渉出来る事に気付くが、その能力の背後にはデュマ・キーに潜む恐ろしい悪霊の存在があった。

構成
正直なところ、序盤はかなり読みにくい。というのも、主人公の交通事故による混乱と後遺症が描写されすぎているからだ。ある種のホットスタートともいえるが、平穏な日常からスタートしない分、読み難いが、主人公の病状が安定するまでの辛抱だ。

中盤は、結構長めにエドガーが能力を開花させそれを訓練していく過程が描かれる。キングの別作品『不眠症』もそんな感じだったが、中年やジジイがある日、霊的な世界にアクセスできる特殊能力に気付いて徐々に力を試行錯誤する描写って結構面白い。どこか自意識の成長とリンクしがちな少年漫画やラノベにおける能力開花描写とはまた違った要素がある。

終盤は、割と唐突な感が強いが、ゾンビ幽霊だとか、よく分からん呪われたエリアだとか、変なモンスターだとかがバシバシ登場して、これぞキング作品という感じ。

最後は男三人で悪霊の拠点である廃墟に乗り込んで対決からの、友情エンド。男女間とか家族の結束みたいな感じじゃない、こういうエンディングは割とキング作品じゃ珍しい部類じゃなかろうか。主人公が、仕事も子育てもリタイアした後なのも関係しているんだろうけど、こういう終わり方はスカッとしてて良い。オッサン同士の友情。

雑感
解説読んだらそこでも触れられていたんだけど、結構雰囲気が『リング』に似ている所がある。貞子が念写した呪いのビデオの代わりになるのが、主人公が超自然的な存在に描かされた絵になっていて、それが拡散して受け取った人が次々に死んでいく所だったり。『リング』のクライマックスが貞子の骨を井戸の底の水たまりから引き上げるだったのに対して、こっちは空になった貯水槽の底から敵の本体を発見して再び真水に漬けることだったり。タイムリミットが迫る感じも割と似ている。

ちょっと違うのは、ラスボスがちゃちな人間霊では無いもっと強大な超自然的存在であるとことだろうか。その辺はまぁ、いつものキング作品という感じである。正気度を失った人が敵に操られちゃうのとかもいつも通り。

異能力を訓練して戦う感じは、『不眠症』もそんな感じだったけど、その辺りのラノベ感は息子のジョー・ヒルの作風から来てるのかなと思ったり。まぁ、シャイニングとかの昔から超能力は書いてた気はするが。
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by cemeteryprime | 2016-02-29 18:37 | 作品・感想 | Comments(0)

【小説感想】特等添乗員αの難事件

特等添乗員αの難事件I (角川文庫)

松岡 圭祐 / 角川書店(角川グループパブリッシング)

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スピンオフ
 特等添乗員αとは、万能鑑定士Qの事件簿シリーズ全12巻の後に万能鑑定士Qの推理劇シリーズと平行して出版されていた別主人公のシリーズである。この2作品はちょくちょくクロスオーバーしているので、推理劇シリーズを読むならこちらも一緒に読んでおくとより面白い感じ。

コンセプト
 万能鑑定士Qシリーズの主人公、凜田莉子が論理的思考を武器とするのに対して、特等添乗員αの主人公、浅倉絢奈が武器にするのは水平思考(ラテラル・シンキング)だ。垂直思考(論理的思考)と水平思考という感じでこの二人は対になっている。このコンセプトがなかなか良くて、ハッキリと両者に得手不得手が存在する形になるので、結果的に主人公の超人化に歯止めが掛かるという効果を生んでいる。

あらすじ
 主人公の浅倉絢奈は中卒のお馬鹿なニートであったが、派遣添乗員試験の面接会場でたまたま知り合った観光庁の若きエリート壱条に、そのラテラルシンキングの才能を見出される。試験は馬鹿すぎて余裕で不合格だった浅倉だが、壱条家に支える使用人で彼の家庭教師でもあった能登の下で一般教養とラテラルシンキングを指導される。

 壱条の様な官僚には論理的思考が求められ、トラブルに直接対応する現場の人間にはラテラルシンキングの才能こそが求められると考える壱条にとって、浅倉は最高のパートナーであった。こうして最強のトラブルシューターとなった浅倉絢奈は人気の派遣添乗員として仕事先や壱条の依頼で遭遇した様々な事件を解決していく。みたいな話。

水平思考
 確実に物証を抑えながら根拠ある道筋をたどって真実に行き着く凜田莉子のスタイルとは異なり、浅倉絢奈の場合はラテラル・シンキングなので速攻で真相に到達するのだが根拠も物証も無い。なので、毎回詐欺師的な手口で逆に敵を罠に嵌めて自爆させる手法をとる。なので、同じく詐欺事件を扱った人の死なないミステリーなのだが、万能鑑定士Qと結構テイストは異なっている。

キャラクター
 ラテラル・シンキングは、主人公の武器であり属性でもある。基本的には作中では水平思考とは、人の裏をかくような詐欺師向きの才能として扱われている。主人公の場合は、そうしたチート的というか詐欺師的な思考回路が身についてしまっている事に引け目を感じつつも、才能を受け入れ、正義の心で水平思考を詐欺師バスター的な方向に活かすという話になっている。

 浅倉絢奈の場合は、優秀で美人なキャビンアテンダントの姉がおり、姉ばかりが評価される家で育った為に、とにかく姉や家族から否定されたくないという勝負から逃げる方向に特化して思考回路が成長し、結果的に自然と水平思考を行う人格と化したという設定。そのせいで、まともな論理的思考能力が育たず、一休さんのトンチみたいな物でお茶を濁すので家族からも人格に難があると思われいてニート状態でも已む無しと放置されていたという…。

 ちなみに水平思考な部分以外は、万能鑑定士Qの凜田莉子も添乗員の勉強をしていたこともあって思いっきり知識が被っていたりしている。

シリーズ
 今のところは5巻まで出ていて、多分これ以上は続きは出ない気もする。面白いのは間違い無いが、主人公のキャラ的にも万能鑑定士Qありきな感じなので、基本的にはそちらを優先的に読んでおいたほうが良い。このシリーズ単体で読むのはちょっと勿体無い感じ。
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by cemeteryprime | 2015-08-31 16:19 | 作品・感想 | Comments(0)

【小説感想】万能鑑定士Qの事件簿

遂に12巻まで読み終えた。
 1巻と2巻が同時発売されたのが約5年前。当時、千里眼シリーズなどで松岡圭祐作品のファンだった私は速攻で購入したのだが、あまりの作風の変化と期待はずれな内容にディスりまくった記憶がある。ボリューム満点の娯楽エンタメ作品な作風から急に軽量級のライトノベルに変わっていたからだ。

 その後、しばらく糞作品認定していたのでこのシリーズは一切購入していなかったのだが、『探偵の探偵』を読んだのがキッカケでまた松岡圭祐作品を読みたくなったので続きを購入してみた。

 すると…なんと面白いではないか。あまりにもダークで少し辟易してしまう『探偵の探偵』の反動という面もあるかもしれないが、どこまでのライトでサクッと読めてしまうこのシリーズの魅力に気付くことが出来たのである。

作品概要
 万能鑑定士Qとは、主人公が経営するお店の名前である。主人公はまだ若い女性なのだが、高度な記憶術と論理的思考法を習得しており、あらゆるジャンルの物をその場で識別するのである。幾らかは名探偵的な博覧強記によるものだが、あくまで推理力を駆使する部分がミステリーの主人公らしい部分である。万能鑑定士というのはあくまで、屋号で資格などは持っていない。美術品から日用品、毒キノコの分類まで広範囲にカバーしているのである。

 このシリーズのセールスポイントは人の死なないミステリーだ。ただしありふれた日常的ミステリーを扱ったものでは無く、毎回異常でガッツリと世間を震撼させる詐欺事件と対決する話になっている辺りは松岡圭祐作品らしいサービス精神といった所だろうか。名探偵の行く所に殺人事件ありでは無いが、万能鑑定士の行く所に詐欺事件ありなのである。詐欺事件は割とありふれているのでそんなに不自然では無いかもしれない。

魅力
 このシリーズの一番の魅力は、何と言っても短時間で読める点だ。人がコンテンツを読んでいる際に感じる面白さというのは、時間辺りの物である。振り返るととても面白く心に残る作品であっても、読んでいる時は退屈を感じてしまう作品というのは存在する。それは主に消費時間が長すぎるという問題である。時間辺りに換算すると、面白さの密度がグッと低下しているのである。

 このシリーズはページ数もそんなに分厚く無く、構成的にも基本的に読みやすい。個人差はあるかもしれないが、推定所要時間は1時間くらいといった所だろうか。1冊の値段も税込みで550円程度と青年誌漫画と近い価格帯で、1冊毎で完結しているのもポイントである。同じ価格で、きちんと完結している方が満足度は高いし、小説なのでストーリー分量も多い。

 これは作風的な部分でもあるのが、トリビア的な要素が詰まっているので、ストーリーはライトなのだが情報量的にはそこそこボリュームを感じるというのもポイントだ。ストーリーがライトでドラマ性が薄くても、ミステリーの骨格を持っているのでグングン読み進められる点も良い。通勤や通学時間が片道30分もあれば毎日1冊購入していける感じなので、コンテンツ商品としてかなり上手く設計されている様に感じる。

印象の変化
 1巻+2巻を読んだ時と、ガラリと印象が変わったのは単に性格の変化なのだろうかと、改めて読みなおしてみた。すると、1巻と2巻は前後篇の分冊であり、ストーリーテリングの手法としても時系列を前後させたりのギミックが目立った。1話完結で読みやすいストーリーテリングという、ポイントが機能していないのである。もちろん、内容的には面白くないという事は決して無いのだが、その後に形成されたフォーマットと比べるとライトなコンテンツ商品としての完成度は低かったという印象である。

 過去のディスりまくった記事についてはアドレスを貼っておく。
http://rexmundi.exblog.jp/14062618/

 過去記事で指摘している様に、ドラマ性やキャラ性は正直薄い。のだが、シリーズ物として連作なのでそのあたりは読み進めていくと徐々に補完はされていく。これからは読み始める人は、まずは1巻と2巻をまとめ買いして、その後は3冊づつくらいまとめ買いしていく事をオススメする。本当にすぐに読めちゃうからだ。
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by cemeteryprime | 2015-08-26 11:57 | 作品・感想 | Comments(0)

【小説感想】リング

リング (角川ホラー文庫)

鈴木 光司 / 角川書店

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映画版のヒットでJホラーの代名詞みたいな存在になったリング。原作小説は未読であったので、ホラー構造の確認という個人的な題材の研究用に今更購入してみた。かなり古い作品なので、ネタバレ全開で個人的に面白かった部分について解説してみる。

(1)構造
リングのストーリーはシンプルにまとめると以下の様な物だ。まず、主人公である新聞記者が呪いのビデオの存在に行き当たる。呪いを受けて恐怖に囚われた主人公は、毒を持って毒を制するという名目で不愉快な外道の高山竜司という古い知人を巻き込む。呪いのビデオと変わらないくらいに理解不能な人物で、尚且つ巻き添えにしても心が傷まないという理由だ。そして主人公と高山竜司は呪いのビデオの謎を解くために奔走する。物語のラストでは2つの衝撃の事実が明かされる。1つはビデオの呪いの本当の解除方法である。もう1つは高山竜司が実は友達思いのピュアな童貞だったという話だ。

始めから呪いのビデオや貞子が主役のホラー作品だと決めつけて読んでいると、このラストでの高山竜司死亡後の童貞発覚という展開が意味不明に感じるに違いない。が、構造的に考えれば呪いのビデオと高山竜司という対になる2つの理解不能な存在を軸にしたストーリーなので、ラストで両者の真相が発覚するのは自然な話である。因みに呪いのビデオの方も、呪い解除後の真相発覚なので全く同じ構図だ。

(2)呪いのビデオ
呪いのビデオの話自体は実はあっけない。その事実が発覚するのはラストだが、主人公は実はストーリー序盤に知らぬ間に解除方法を実行していたのである。恐怖にかられて、自分を親友だと思っている高山竜司を利己的に巻き込む形で。

このストーリーはビデオの呪いの解除方法が判らないという恐怖が主人公を突き動かす原動力になっている。冒頭で登場する呪いのビデオの被害者たちと主人公の違いは、解除方法を知っていたか知らなかったかの1点だ。解除方法を知ってた被害者たちは、本気にせずにそのまま死んでしまった。主人公は解除方法が判らなかったからこそ、恐怖にかられて高山竜司を巻き込み、既に問題が解決している事にも気付かず自分の家族まで巻き込み、事態をエスカレートさせていく。リングは恐怖に駆られた主人公が利己的に暴走するホラーなのである。

(3)高山竜司
呪いのビデオにおけるどんでん返しは、実はとっくに助かっていたという話に過ぎないので衝撃は小さい。衝撃が大きいのは高山竜司が童貞だったというオチが付くストーリーの方である。これが発覚した事で、主人公は真の外道が自分だったことを悟るのである。こちらの方がホラーだ。そして、主人公は嫁と子供を救うために嫁の両親を犠牲にしようと決意してストーリーは終わる。確信犯的な外道と化すのだ。ギャグの様なオチなので高山竜司が実は童貞でしたというストーリーの重要性をスルーしていると、こうした主人公のストーリーも見えなくなる。呪いのビデオと童貞高山は、性質的にも綺麗な対比関係を持っているのでその辺りを改めて考えると色々と面白い。正直、ここまで童貞がテーマ的に重要性を持っている作品を他に知らない。
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by cemeteryprime | 2015-03-30 10:50 | 作品・感想 | Comments(0)

【小説】マダム・マロリーと魔法のスパイス (感想)

マダム・マロリーと魔法のスパイス (集英社文庫)

リチャード・C. モレイス / 集英社

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インド人料理屋の子供が、フレンチの3つ星シェフになるまでを描いたストーリー。

立身出世モノとお料理小説は割りと好きなジャンル。漫画脳なので、こうカタルシス全開な成り上がり系を期待したんだけども、そういう感じの話では無かった。保守的な頑固なシェフ(マダム・マロリー)が主人公の才能を見込んで大嫌いなライバルのインド料理店に三顧の礼ばりに頭下げて弟子に迎えたり、いろいろな老師的な人物に恵まれたりみたいなそういう系のお約束はフォローされてて良かった。

ただ、個人的にはもうちょっとインドを活かせよ感は否めなかった。インド出身の外国人なのに逆に伝統的なフランス料理の守り手になって最先端フレンチに対抗するみたいな展開になるんだよね。そこはこう、インド料理を活かして特色出すみたいな展開の方が好みだったなー。

そこそこ面白かったが、主人公が金もあるし才能もあるというリア充すぎてイマイチ立身出世要素が低かったのが何とも・・・。インドのスラム街から味覚だけを武器にのし上がるくらいのカタルシスが欲しい。
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by cemeteryprime | 2014-10-01 19:53 | Comments(0)

【小説】猿の惑星/ファイヤーストーム (感想)

猿の惑星 ファイヤーストーム (角川文庫)

KADOKAWA/角川書店

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映画『猿の惑星/ジェネシス』の直後を描いたスピンオフ作品。ちなみに映画2作目の『猿の惑星/ライジング』はジェネシスの10年後。時系列的にはライジングよりも前だけど、内容的にはライジングを観てから読んだほうが良い。

あらすじとしては、ジェネシス社が市長とグルになってウィルス流出事件を隠蔽しようとしている間に事態はパンデミックへと発展。パンデミックと平行して、ジェネシス社は極秘にウイルス治療薬を作るために猿の捕獲作戦を行う・・・みたいな内容。

ライジングで大活躍するコバのオリジンがガッツリ描かれているのがポイント。映画と同じようなバランスで人間サイドのストーリーも展開するものの、エイプ側が多めでその殆どはコバ目線から語られる。

ギミック的にはアルツ113の影響で知能が進化していく過程で、コバが過去をどんどん思い出していくみたいな流れ。回想の過程で後半は『猿の惑星/ジェネシス』での話も触れられてくる。

個人的に『猿の惑星/ライジング』はコバが激熱だったので、そのコバの内面を補足してくれる今作はまさに願ったりかなったりな作品だった。いろいろ酷い目にあってきたコバの前に救世主の様に現れたシーザーに心頭する様子とか、シーザーに認められて感激するコバとかいろいろ読めて最高な内容になっている。こんなコバが、ライジングであんなことに・・・という感じで、より悲劇性が強調される感じ。読んでいて特に蛇足感とか、矛盾も無かったし、普通に良作品だと感じた。映画を観ずに単体で読んだらつまんないだろうけど。


どうでもいいけど、本文中とカバー裏の登場人物表でキャラ名のカタカナ表記が違っていて若干混乱した。
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by cemeteryprime | 2014-09-28 16:49 | 作品・感想 | Comments(0)

【小説】NOSF4A2-ノスフェラトゥ- (感想)

NOS4A2-ノスフェラトゥ- 上 (小学館文庫)

ジョー ヒル / 小学館

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前半は主人公が超能力に目覚め、同類と出会い、そして邪悪な同類であるチャールズ・マンクスの存在を知り、対決する。後半は全ては悪夢であったと能力を封印し、母親となっていた主人公の前にマンクスが復讐の為に蘇り息子を誘拐。息子を取り戻す為、主人公は再び能力に向き合って邪悪なマンクスと対決するという内容。

と、まぁプロット的にはスティーヴン・キングのITにそっくり。作中の固有名詞としてペニーワイズとか出てくるので、その辺りは意図的なものじゃないかと思う。作者のジョー・ヒルはスティーブン・キングの息子。息子なのがバレる前から売れてた作家なんだけど、今作はバレた後に発表された長編作品なので、逆に敢えて親父と似たプロットで書いたったみたいな事なのかなとか思うのだが、どうだろうか。

両者を比較してみると、キングはあくまでドラマに特化した人間の内面的なおぞましさとか恐怖を描くのがメインで、それ故に出てくるラスボスは”悪魔”以外の何者でもないシンプルで陳腐なキャラだったりする。今作の場合はあくまでドラマ的には家族の物語に絞られてるし、ストーリー的もきちんとファンタジー小説寄りな印象。敵も悪魔チックではあるものの元人間で明確に人格がある。キングの溢れ出るダークサイド!狂っていく住民!みたいなエクストリーム感は無いけど、バランスとれててこれはこれで良い。

敵が悪魔とかじゃなく超能力を持った元人間なので、ITよりもジョジョっぽい感じはある。今作に出てくる超能力は、キャラクターが自身のトーテムとなる道具を使って特殊能力を発動させるという物。特定の道具が無いと能力が使用できなかったりする制約とか、能力が割と概念チックな感じなのもあってスタンド能力っぽい。

例えば主人公の能力は、父親に買ってもらたマウンテンバイクをトーテムとして、探し求める物がある場所へのショートカットコース(屋根付きの橋)を出現させる能力。場所から場所への移動しか出来ないので、移動する対象には作動しないのと、行き先が判らなくてもダウジング的に目的地に到達できるのがポイント。

敵のチャールズ・マンクスのトーテムは、ロールスロイス”レイス(亡霊)”。ショートカットは出来ないものの、誰にも発見される事無く標的となる子供の家からマンクスの想像力の世界に存在するクリスマスランドまで移動できるのに加えて、能力の使いすぎでロールスロイスの方が本体化しているので車自体が怪異化している上に、車が破壊されない限り死なない。

マンクスはドラキュラ伯爵における従者レンフィールドみたいな感じで、いかれた殺人鬼のガスマスクマンを助手にしている。ガスマスクマンは、麻酔ガスを使って子供と親を誘拐した後、親をレイプして殺す担当。この吸血鬼マンクスと、部下のガスマスクマンが邪悪なロールスロイスでアメリカ中で子供を誘拐して回っているわけだ。

マンクスを追跡できるのは主人公の能力だけ・・・と、そういう展開。熱い。能力者モノだし、魅力的な敵も出てくるし、普通に面白い。
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by cemeteryprime | 2014-07-14 14:16 | 作品・感想 | Comments(0)

【小説】朱元璋/皇帝の貌 (感想)

朱元璋 皇帝の貌 (講談社文庫)

小前 亮 / 講談社

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朱元璋が皇帝として成り上がっていく過程における変化を主軸に描いた作品。朱元璋自体の面白さという所を差っ引くと、どうしても小説としては物足りない感じ。上手いこと肉付けして小説にはなっているものの、基本的に段取りっぽくなぞっている感じ(史実物だから仕方ないが)で朱元璋のキャラとか仲間のキャラとかが弱くてドラマがいまいち盛り上がりに欠ける。

もうちょっと派手に嘘付いてカタルシスとか小説的なエンターテイメント性を出してくれたらな-みたいな。そんな印象。朱元璋スゲー!!!どんどん完璧超人になっていく!!ってのを仲間たちが、ちょっと離れた所から眺めてるだけみたいな展開が多くてうーん・・・。
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by cemeteryprime | 2014-07-07 22:29 | 作品・感想 | Comments(0)

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